アイヌ民族の信仰の中心となる神々。アイヌの家屋は西向きの出入り口、屋内やや中央の囲炉裏、東側の窓をつないで、ちょうど一直線になる構造を持つ。囲炉裏がもっとも神聖な場であり、アペ・カムイ(火の神)、あるいはカムイ・フチ(火の老女神)などと呼ばれる神が宿るとされる。囲炉裏の東側が上座となり、その左上隅の灰にアペ・カムイに捧げたイナウ(木幣)が挿される。イナウとは、ミズキやヤナギなどの枝を薄く細長く削って紙垂(しで)のように垂らした削り掛けのこと。これは神への供物であり、神体そのものでもある。また、屋内の北東隅にはチセ・コロ・カムイ(家の守護神)が祀(まつ)られ、イナウが捧げられる。チセは「家、巣」、コロは「持つ、つかさどる」などの意で、アペ・カムイとは夫婦であるとする説もある。炉端ではさまざまな儀礼が行われ、家の主人によりイナウが作られ、東側の窓から出される。その窓はカムイ・プヤラ(神の窓)と呼ばれ、神々の神聖な出入り口となるため、この窓からのぞき込むことは厳禁とされる。窓の外にはイナウが数多く祀られ、ヌササン(幣壇)と呼ばれる祭祀場となる。ここには森の神や狩猟の神、水の神、先祖などが祀られている。アイヌの宗教はアニミズムあるいは自然崇拝とされるが、山や川、動植物の霊・神々と交流し、自然と共存していく生活宗教を培ってきた。