男・女の生殖器の持つ呪力・霊力を信仰して、石製・木製・金属製の男女の性器を作って祀(まつ)り、多産・豊穣や魔除け・除災を祈願すること。性崇拝、性器崇拝とも言い、性(セクシュアリティ)に関わる民俗信仰は世界中に見られる。古代ギリシア・ローマをはじめとして、インド、北欧、東南アジア、パプアニューギニアなど、世界中のいたるところで生殖器崇拝は盛んであった。男性器・男根(ファルス)が中心であり、男根崇拝(ファリシズム phallicism)と呼ばれている。一方で、シバ・リンガ(シバ神の男根)が据えられた妻パールバティーのヨニ(女陰)や、アメリカ先住民が信仰した女性器形の自然石、握った手の人差し指と中指の間から親指を出す魔除けのフィグ・サイン(女性器の象徴とも男女の交合を表すともいう)など、女陰信仰も世界中に見られる。東アジアでは、中国の陰陽思想(→「道教(タオイズム)」)の影響によって、陰陽和合による世界の秩序の調和が説かれ、男女和合が自然世界に豊穣をもたらすという信仰が広まっている。日本でも、縄文時代には男根を象った石棒と乳房や陰部など女性の特徴を強調した土偶、弥生時代には木製・石製の男女の人形(ひとがた)が数多く作られている。また記紀神話に見られるように、イザナキ(イザナギ)とイザナミの性行為によって国生みが行われたとする神話や、アメノウズメが天岩戸(あまのいわと)の前で胸乳(むなぢ)を露わに、裳紐(もひも)をホト(女陰)に垂らして踊ったという神話があり、古代以来、生殖器崇拝は存続している。古墳時代には、男性器(ハゼ)を付けた埴輪や女性器を陰刻した埴輪が制作されている。平安時代には、男・女性器を付けた人形や陰陽石、男女和合像が祀られ、道祖神や賽の神(さいのかみ/さえのかみ 塞、障などの字を当てることもある)などと呼ばれている。道祖神は金精様(こんせいさま)・カナマラ様とも呼ばれ、境界の神として、小正月に魔除けや子授け・家内和合・子孫繁栄が祈願され、江戸時代後半には関東甲信越などを中心として数多く作られた。今に残る性神事も全国至るところにあり、例えば奈良県の飛鳥坐神社(あすかにいますじんじゃ)のおん田祭(おんだまつり)では豊作・子授けを祈願して、天狗とお多福が夫婦和合を演じる。また、愛知県小牧市の田縣神社(たがたじんじゃ)の豊年祭や神奈川県川崎市の金山神社(かなやまじんじゃ)のかなまら祭では、巨大な男根を乗せた神輿が出ることで有名である。