ついに電子書籍の時代に突入した。2010年5月に、アップルのタブレット型端末iPadが日本でも発売され、それに対応する日本語の電子書籍が導入されたのが火付け役となった。例えば講談社は、iPadの発売に合わせて人気作家京極夏彦の新作「死ねばいいのに」を、ペーパー本と電子書籍(iPad、iPhone、PC、携帯電話に対応)でほぼ同時発売し、「電子書籍と紙の本は両立できる、むしろ相乗効果がある」と喧伝(けんでん)した。もちろん、そうした結論を出すのは時期尚早だが、電子書籍の本格化は誰の目にも明らかなものとなったのである。紙の質感を残した電子ペーパーによる電子書籍専門端末としては、すでにアメリカで発売され、先行するアマゾン・キンドル(Kindle)に対抗する機種と目されているソニーのReader(リーダー)日本語版も同年12月に発売され、注目されている。一方、シャープのGALAPAGOS(ガラパゴス)は、電子書籍だけではなく汎用的機能を持ち、同じ汎用型で先行するiPadを追走する。NTTは、韓国の三星(サムスン)電子と組んで開発したギャラクシー・タブを同年11月に発売した。11年中には、キンドルの日本語版、グーグルの電子書店への参入(サービス名「eBooks」)なども想定され、電子書籍元年と言われた10年から、1年もたたずに戦国時代に入ったとも言われる。しかし、いずれの端末もフォーマットなどの互換性はなく、例えば文学であれば作家・作品を、それぞれの陣営に囲い込む状態となっている。そうした企業側に対し、作家の村上龍は、10年11月、自ら電子書籍を製作、発売する会社を作り、同年7月すでにiPad向け配信を始めていた最新作「歌うクジラ」を、ペーパー本と同時発売した。一方で、吉田修一の「悪人」(→「『悪人』ブーム」)がガラパゴスで電子書籍化されているように、各端末ごとに著作権者が系列化される動きが見られ、電子書籍の著作権問題がクリアされないうちに、事態は大きく動き出していると言わなければならないだろう。日本文藝家協会では、電子書籍出版検討委員会を組織して、著作権者側から電子書籍への対応を検討しているが、事態の進展に追いつくのが精一杯で、統一的なガイドラインを示すことができずにいるが、迅速で堅実な対策が求められるところだ。また、電子雑誌の動きも急で、角川書店は10年12月に「デジタル野性時代」を創刊。講談社から発刊されている文芸雑誌「群像」も、11年中に電子版を発行し、ペーパー版と両立させると発表した。