母語に加えて、もう1つ別のことばを使う人を指す。世界では、母語しか使わない人(モノリンガル)は少数派である。2つのことばのすべての側面(読み書き、聴く、話すなど)を、まったく平等にできる人のことを、均衡バイリンガル(balanced bilingual)という。ただし、このような人はそう多くはない。だいたいは、二言語のうち、どちらかが優っている。だから、日本人が仕事のうえで、英語を読んだり書いたりすれば、立派なバイリンガルなのだが、そう自覚する人は少ない。二(多)言語が使われる社会的環境で育つ子どもは、ごく自然にバイリンガル(マルチリンガル)になる。インド人はほとんどが地域のことば、州の公用語、さらに連邦の公用語であるヒンディー語をあやつる。しかも、英語もこれに加わる。バイリンガルは言語によって、文化や思考を使い分けるといわれることがあるが、それは必ずしも常ではない。むしろ、バイリンガルは2つのことばを学ぶことによって、視野を広げることが可能なので、行動範囲を広くもつことができるといったほうが適切であろう。バイリンガルが言語を切り替えることを、コード交換(code-switching)をいう。実際は、この過程で、コード混合(code-mixing)がよく生じる。英語のなかに「えーと」と入れたり、日本語のなかに「It's your business.(私には関係がない)」と入れたりするのは、その一例である。バイリンガルは脳のなかに二言語を別個にではなく、複合的にストックしていることの現れであろう。ところで、同一言語内の2つの方言の使い分けでも、バイリンガルと同質の能力が機能している。たしかに、共通日本語と沖縄方言(琉球方言)の使い分けは、まさにそのとおりである。