福井県若狭町の三方湖に注ぐ高瀬川とはす川の合流点にある縄紋時代前期の低湿地遺跡。従来から多くの木器・漆器など植物性の遺物が発見されていた。漆器文化財研究所の調査により、5300年前ごろの結歯式縦櫛(竪櫛)(けっししきたてぐし)の漆塗膜表面に円形の凹みが四つならぶものがあり、象嵌(ぞうがん)技法が用いられたことが確認された。なお結歯式縦櫛は、細長い棒を束ねて作った縦長の櫛であり、主に飾り櫛として用いた。縄紋時代にはこの他に、一木を削り出して作った刻歯式縦櫛(こくししきたてぐし)もある。象嵌技法は、器物の表面に凹みを作り、色調が異なる他の素材をはめ込んで装飾とする技術であり、従来は奈良時代に中国からもたらされたとされていたものである。本例は日本で最古の象嵌技法例であるだけではなく海外でも本例ほど年代がさかのぼるものは発見されておらず、その起源や後の時代の象嵌技法との系譜関係の解明が期待される。なお鳥浜貝塚からは縄紋時代草創期(1万2000年前頃)の漆(うるし)の木が見つかり、漆関連として世界最古の資料となっている。