林芙美子の自伝的小説を菊田一夫が脚色、1961年、東京・日比谷の芸術座にて初演。菊田の死後、三木のり平が演出を担当するとともに、脚本を大幅に改訂し、ほぼ現行通りの長さにまとめた。主演の森光子は、戦前から大阪を中心に映画・演劇に出演していたが、病のため舞台から遠ざかるなど不遇の時期が長かった。戦後その資質を見抜いた菊田一夫によって東京に呼ばれ、58年から芸術座に出演。「放浪記」初演にあたっては、抜擢(ばってき)されて主役の林芙美子役を演じた。以後、舞台やテレビドラマで多くの当たり役を演じ、日本を代表する女優の一人となった。「放浪記」はその後も再演を重ね、芸術座の代表演目となり、その最後を飾るとともに後身となったシアター・クリエでも上演されたほか、帝国劇場などの大劇場にも進出したが、森は一貫して芙美子役を演じ続け、上演回数は、2009年5月9日の森の誕生日に2000回という空前の記録に到達し、国民栄誉賞を受賞した。その後上演回数は2017回を数えた。12年に森が没した後、15年からは仲間由紀恵(1979~)が芙美子役を演じている。