歌舞伎・文楽などで、舞台上から観客に向けて述べる挨拶や説明のこと。江戸時代には、演目や出演者を知らせるために頻繁に行われた。現在でも文楽では場ごとに行っている。「隅から隅まで」という意味で、東西あるいは東西東西(とざいとうざい)という呼び声に始まるのが通例。「仮名手本忠臣蔵」の大序(最初の部分)で、人形がすべての役名と演者を読み上げる習わしに往時をとどめる。現在では、口上といえば襲名興行や追善興行の際に行われることが多い。開演中にしばらくの間劇の進行を中断し、口上を述べる場合もあるが、大きな襲名・追善では「口上」という一幕を設け、時間をかけて行う。その際、役者はそれぞれの家に伝わる由緒ある色の裃(かみしも)を着ける。出演中の主だった役者全員が、色とりどりの裃で舞台狭しと並び、交々(こもごも)に襲名する役者や先代、あるいは物故した名優の思い出を語る口上の一幕は、観客にとっても様々な思いが交差する特別なひと時である。