歌舞伎俳優の名跡。屋号は成駒屋。5代目(1866~1940)は、女形(おんながた)ながら歌舞伎座の座頭として大正・昭和初期の劇界に君臨した。淀君を当たり役とし、古典の大役においても深みと気品に満ちた演技に定評があった。6代目(1917~2001)は、5代目の次男。父の死後、初代中村吉右衛門の薫陶を受け、その相手役として女形の大役を次々と演じ、美貌と実力を兼ね備えた若女形(わかおやま)として、7代目尾上梅幸(当時3代目尾上菊之助 1915~95)と人気を競った。三島由紀夫も早くからその存在に注目し交友を深めた。1951年、新装なった歌舞伎座で6代目歌右衛門襲名。女形として古典のあらゆる役で最高の演技に到達する一方で、新派・東宝歌舞伎への出演、古典の復活、三島由紀夫や北條秀司などの新作上演、海外公演、後進の育成にも力を尽くした。古典の骨格をしっかりと踏まえた上で、近代的な深い解釈を加え、気品あふれる様式美の中にも、時にあでやかな情緒や妖しい情念をみなぎらせ、20世紀後半の観客に、これこそが歌舞伎だと常に実感させた。79年文化勲章受章。5代目歌右衛門の長男で早世した5代目中村福助の長男である7代目中村芝翫(1928~2011)は折り目正しい演技で昭和後期から平成にかけて円熟の女形芸を見せ、2006年文化功労者。7代目中村芝翫の長男が9代目中村福助(1960~)、次男が8代目中村芝翫(1965~)である。