女優。1906年1月6日、広島県生まれ。27年、築地小劇場に入り、築地座を経て、37年、文学座創立に参加。40年、マルセル・パニョル作「ファニー」で主演。42年には、後に「無法松の一生」として映画化される森本薫脚色の「富島松五郎伝」で丸山定夫と共演、吉岡夫人役を演じる。終戦前の45年4月には、森本薫作「女の一生」を初演。主役の布引けいは生涯の当たり役となり、戦後も上演を重ね、90年には947回の上演回数を記録する。文学座以外にも多くの舞台、映画、テレビドラマに出演し、戦後を代表する名女優として長く親しまれた。63年、文学座は分裂し、福田恆存、芥川比呂志らを中心に劇団雲が設立され、さらに64年には、三島由紀夫の「喜びの琴」上演を巡る対立から有力なメンバーが退団して劇団NLTを設立するなど、劇団は存立の危機に立たされた。これを乗り越え、文学座が今に至るまで結束して劇団として高いレベルを誇り、数々の名作を世に送ったばかりか、俳優・演出家に幅広い人材を輩出してきたことは、杉村の存在ぬきには考えられない。築地小劇場以来の新劇の本流に位置しながら、歌舞伎俳優との共演、新派や商業演劇への出演を通じて芸を磨き、他の追随を許さぬ女優としての存在を築き上げた。舞台の代表作に、「女の一生」の他、森本薫作「華々しき一族」の諏訪、三島由紀夫作「鹿鳴館」の影山朝子、有吉佐和子作「華岡青洲の妻」の於継、「ふるあめりかに袖はぬらさじ」のお園、エドモン・ロスタン作「シラノ・ド・ベルジュラック」のロクサーヌ、テネシー・ウィリアムズ作「欲望という名の電車」のブランチなど。映画でも、豊田四郎、成瀬巳喜男、小津安二郎、木下恵介、新藤兼人ら名匠の作品に数多く出演している。48年「女の一生」で戦後第1回の芸術院賞を受けるなど受賞多数。74年文化功労者。95年には文化勲章の内示を受けるが辞退。97年4月4日死去。