男女の性愛を描いた主に江戸時代の絵画。日本では、明治後期以降、性愛を浮世絵で表現した江戸時代の「浮世絵春画」が猥褻であるとの漠然とした認識があり、長い間タブー視されてきた。しかし、春画の描き手には菱川師宣(1630ころ~1694)や喜多川歌麿(1753~1806)、葛飾北斎(1760~1849)などの名だたる絵師が名を連ね、作品には時代の風刺や笑いの精神、風俗、習慣などが見事に表現されている。欧米では19世紀末のジャポニスムなどで高い評価を得てきたが、近年日本でもその芸術性と、見過ごされてきた歴史解釈を浮かび上がらせる必要性を重視する声が上がりはじめ、1990年ごろから国際日本文化研究センター(日文研)や立命館大学が春画の資料収集を開始した。これらにロンドン大学や大英博物館などが加わり、2009年「春画プロジェクト」がスタート。プロジェクトの目的の一つとして開催された春画展が、13年10月から翌14年1月まで、大英博物館で開かれた「Shunga : sex and pleasure in Japanese art(春画:日本美術における性とたのしみ)」展だ。この展覧会では、平安末期から中世にかけて性愛の場面が描かれた絵巻物の模本から狩野派の手による春画、さらに江戸時代の浮世絵春画のエロチックな情景へと時代を追って展示された。また、「春画と検閲」「春画とパロディ」などテーマ別の展示もあり、西洋と日本の研究者による春画研究の成果が示された。日本では、当初開催場所が決まらず難航していたが、15年9月から12月まで東京の永青文庫で、さらに、翌16年2月から4月までは京都の細見美術館で開催され、予想以上の反響を呼んだ。ここにきてやっと春画が浮世絵の重要なジャンルの一つとして位置づけられたように思われる。