モダニズムは、家型、すなわち伝統的な三角屋根を嫌い、平らな陸屋根を好んだ。しかし、20世紀後半のポストモダンの時代には、記号的な表現として家型のモチーフを再導入した。そして21世紀に入り、ヘルツォーク&ド・ムーロンのほか、藤本壮介(1971~)や中村拓志(なかむらひろし 1974~)が大胆に用い、再び流行したように、家型は2度目のブームを迎えた。ただし、記号としての家型ではなく、家型によって建築の形式や空間の体験を切り開くのが、今回の特徴である。その代表例が平田晃久(ひらたあきひさ 1971~)の設計したイエノイエといえよう。これは横浜トリエンナーレ2008(→「横浜トリエンナーレ」)のインフォメーションセンターとして建設されたものだが、同時に1分の1の住宅モデルである。イエノイエは、複数の小さな屋根に分解し、屋根のあいだの谷が大きく室内に食い込む。ゆえに、屋根が2階の各部屋をゆるやかに区切る。音は聴こえるけれど、顔は直接見えない。つかず離れずの現代的なコミュニケーションの空間化としても興味深い。