2009年10月にリニューアル・オープンした根津美術館は、東京大学教授の隈研吾(1954~)によって設計されたものである。彼は1980年代にポストモダンの建築家としてデビューしたが、90年代に入ると、ミニマリズムと日本的なデザインを追求しており、その集大成というべき作品となった。細い線の集積、あるいはストライプによって大きな面やボリュームを解体し、威圧感を減らしながら、繊細な空間をつくるのは、那珂川町馬頭広重美術館(2002年)や六本木サントリー美術館(2007年)などにも共通する手法である。根津美術館では、都市の環境からいったん切り離すために、竹林のある脇の通路を歩いてから玄関に入るアプローチも興味深い。また学芸員との入念な打ち合わせを重ね、外観やインテリアだけではなく、展示室やケースも、美術品にあわせて細かく設計されている。こうしたデザインの密度が評価され、隈研吾の根津美術館は、毎日芸術賞を受賞した。