伊東豊雄は、70年代にデビューし、当初は豊かな内部空間をもつ閉じた住宅を設計していたが、80年代から都市に向かって開き始めた。その後、95年にせんだいメディアテーク(2000年)のコンペに勝利してからは、実験的なデザインをたて続けに発表し、台湾・高雄の「2009高雄ワールドゲームズメインスタジアム」(THE MAIN STADIUM FOR THE WORLD GAMES 2009 IN KAOHSIUNG)など、海外のプロジェクトも増えている。09年にオープンした「座・高円寺」は、線路や住宅に面した敷地のために、閉じた形態をもつ。玄関も控えめである。むしろ、特徴は鉄板コンクリートによる屋根の造形だろう。ゆるやかなカーブを描く、7つの曲面を組み合わせており、都市のなかのテント小屋をイメージさせる。抑制された外観に対し、内部は一転して、ワイン色を基調とした艶やかな空間が出迎える。また壁や天井に散りばめられた小さな丸窓、そして螺旋(らせん)階段など、曲線による有機的なデザインが来場者を包み込む。近年の伊東は、身体とダイレクトに呼応する建築をめざしている。