2011年3月の東日本大震災の後、伊東豊雄(いとうとよお 1941~)は、世界中の建築家や子供から、人々が集う場所となる、「みんなの家」のイメージを集め、せんだいメディアテーク(2000年)と愛媛県今治市にオープンした今治市伊東豊雄建築ミュージアム(2011年)で展示した。「みんなの家」については、家を失った人々が記憶のなかで共有しうるイメージの家であることと、極限状態で暮らす人々の心を和らげ生きる希望を与えることのできる生命力に満ちたイメージも求められている。また伊東は、くまもとアートポリスのコミッショナーとして、熊本県から仙台市宮城野区の仮設住宅地に、実際に建設される「みんなの家」を寄贈することを実現した。2011年10月下旬に完成した「みんなの家」は、延床38平方メートルの木造平屋、普通の切妻屋根をもち、軒と縁側のあるコミュニティースペースである。この設計には伊東も加わっているが、前衛的なデザインを得意とする建築家とは思えない素朴な小屋だったことが話題になった。被災地で彼が身をもって感じたことは、自然の威力による人間社会の破壊であり、こうした現実に対して「建築家に一体何ができるのか」という根源的な問いだった。みんなの家はその回答であり、新しい「原始の建築」となるだろう。伊東は、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展2012の日本館コミッショナーに選ばれており、以上の問題提起を掲げた展示を世界に向けて行う予定である。