京都市は岡崎地域を舞台芸術の本場とし、世界水準のオペラを上演することを打ちだし、2011年5月、京都会館の再整備計画案を発表した。ホールの天井が低いことや舞台の奥行きが浅いことなどの問題、老朽化や設備・機能の不足を解決し、有名音楽家を誘致するためである。市は耐震補強、バリアフリー化、環境負荷の低減をめざした改修を行うほか、第1ホールについては増築と建て替えの両案を検討した結果、後者を採用した。改修後の高さは30メートルとなるが、新景観政策の規制を越えるため、市はそれを緩和する方針を示している。莫大な建設費用には、ネーミングライツ売却費の一部をあてる見込みだ。しかし、1960年にオープンした京都会館はル・コルビュジエに学んだ前川國男(まえかわくにお 1905~86)が設計したもので、日本建築学会賞(作品)に選ばれるなど、歴史的な価値をもつ近代建築である。ゆえに、前川國男事務所に在籍経験のある建築史家、松隈洋(まつくまひろし 1957~)は京都会館を大切にする会を発足し、複数のシンポジウムを開催するなど保存を訴えた。彼は機器を整備すれば音響問題は解決できる、すべての催しに対応する必要はないなど、部分的な改修でニーズに応えられると主張し、外観を損わないかたちでの改修を訴える。また、すでにオペラの殿堂として知られる滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールが近隣にあることから、建て替えを疑問視する声もある。京都会館のホール建て替えは、岡崎地域の景観、近代建築の保存に関する問題として注目された。