2016年7月、東京・上野の国立西洋美術館がユネスコの世界文化遺産に登録されることが決定した。フランスのモダニズムの建築家ル・コルビュジエ(1887~1965)が日本で手がけた唯一の作品で、国内のモダニズム建築としては初の世界遺産である。装飾を排した鉄筋コンクリート造の建物で、列柱で建物を浮かせるなど、ル・コルビュジエの特徴が随所に見られる。彼に師事した前川國男(1905~86)、坂倉準三(1901~69)、吉阪隆正(1917~80)らも設計に協力し、1959年に実現した。竣工(落成)から半世紀以上たつが、その後の免震工事や建物周辺の美観も評価された。ル・コルビュジエの作品群の世界遺産登録の取り組みは、かねてから進められていたが、2009年、11年の二度にわたり登録が見送られた。そしてようやく、「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」という名称のもと、フランス、日本、ドイツ、スイス、ベルギー、アルゼンチン、インドに現存する17作品が一括で登録された。複数の国にまたがって、一人の建築家の作品群が同時に世界遺産となったのは初めてである。この登録は、日本においてモダニズム建築の再評価と保存を促進する契機になるだろう。