伊東豊雄が設計した台湾の台中市の新しいランドマーク。2005年の国際コンペで勝利した後、09年に着工し、16年9月にオープンを迎えた。工事の難しさもあり、11年の歳月を要しての完成となったが、その間に周辺の開発が進み、早くからその落成が期待されていた。最大の特徴は、地下2階、地上6階建の全体が三次元曲面の構造体でつくられていること。外観は直方体だが、その内部は独自の幾何学的ルールに基づいて生成された、壁がカーブしながら連続する空間が展開し、生物の器官や洞窟を彷彿させる。この施設は、大・中・小の劇場を設け、オペラ上演にも対応するほか、レストラン、店舗、ギャラリー、オフィス、ルーフガーデンなどを併設している。屋内のデザインには、藤江和子による家具や、岡安泉による照明、安東陽子によるホワイエのカーテンなど、様々な分野のデザイナーやアーティストも参加した。複雑な形態の模索は、コンピューターが普及した1990年代に国内外の多くの建築家が追求したテーマだが、台中国家歌劇院はそれを最大規模で実現させた作品といえる。建築の新たな可能性を切り開いた、せんだいメディアテーク(2000年)に続く、伊東の代表作となった。