1934年に竣工した九段会館(東京都千代田区)は、当初、軍人会館と呼ばれており、歴史的には、二・二六事件(1936年の陸軍青年将校らによるクーデター未遂事件)の舞台となった。戦後はイベント会場や結婚式場として使われてきたが、2011年の東日本大震災時に死傷者(死亡2人、負傷31人)を出した天井崩落事故が発生し、閉館していた。16年、建物の部分保存と復元を含めた増築、高層化が決定された。計画では、北側部分はホールの内館復元を含む全面保存と道路に面する東側の部分保存が決定され、西側部分を中心に75メートル程度の高層建築物が完成する計画となった。建物の特徴は、近代的な躯体にの日本風の瓦屋根を載せた帝冠様式と呼ばれる外観である。現存する建物では、名古屋市庁舎(1933年)、東京国立博物館(1937年)、愛知県庁舎(1938年)などにも帝冠様式が見られるが、これらは数少ない事例ゆえに保存されている。一方、九段会館は東京中央郵便局(1931年)を壁面保存したKITTEや、岡田信一郎設計の明治生命館(1934年)などと同様、部分的に姿をとどめながら再開発されることになった。