シャアビが紹介されたことで、アルジェリアの音楽のうちライとシャアビの区別がつくようになったが、さらにカビリア地方(カビール)の音楽をもうひとつ、区別すべきだろう。カビリアはアルジェリア北岸のうち東寄りの地域。このあたりの民族構成は複雑で、アラブ侵入以前からの先住民だが抑圧されてきたべルべルが、カビリアには多い。そのカビリアとべルべルの立場からイスラム原理主義と戦ってきたプ口テスト・シンガーがルネース・マトゥーブだが、彼の代表作が2007年と09年に日本盤で発売され、注目を集めた。彼は政治的な問題をストレートに歌い続けて迫害され、ついに1998年に暗殺された。しかし遺作「大統領閣下への公開状」、パリでの最後の公演の記録「ラスト・コンサート・ライヴ」などどれも、戦闘的な強烈さよりも奥深い表現の豊かさを感じさせる。なお音楽的には彼もシャアビの要素を備えていた。カビリアの大歌手には、ほかにイディール、アイト・メンゲレットなどがいる。