ペルーで1960年代に起こったとされる音楽。本来「チーチャ」とは、とうもろこしで作った発酵酒のこと。2007年に日本に初めてこの音楽を紹介したCDに“ペルーのサイケデリック・クンビア”という言葉が掲げられていたが、もともとチーチャは本質的にインカ帝国伝来のウァイノを受け継いだ音楽だ。ところが1960年代にこの国の山岳地帯から都市に働きに出て来た貧しい人たちが、クンビアやロックの影響も取り入れてエレキ・ギター、エレキ・べース、ラテン打楽器などで演奏するうちに大きく変質し、88年代にはテクノ・クンビアなどという呼び方も生まれ、ラジオで盛んに流れるようになる。しかし安っぼいひなびた感じはクンビアと似ていても、デジタル・クンビアのようなヒネクレた感覚はなく、もっと純朴で大らかな音楽だ。それにしてもラテン音楽のなかで、サルサやレゲエから始まってクンビア、チーチャなど、より貧しい階層の音楽が注目される方向に進んできたのは、興味深い現象だ。