寡作ながら独自の表現で、一作ごとにマンガの可能性を切り開いてきた高野文子が、中央公論新社から2014年に刊行した単行本。手塚治虫文化賞マンガ大賞などを受賞した前作「黄色い本」からは12年ぶりとなる新作。Webメディア「マトグロッソ」(イーストプレス)などに掲載されたものがまとめられている。タイトルの「ドミトリーともきんす」とは、とも子とその幼い娘きん子が暮らす架空の家のこと。2階が学生の寮になっていて、科学者の卵たちが生活している。彼らの名は、朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹。ノーベル賞を受賞するなど、誰もが知っている科学者たちだ。若き日の彼らが、一つ屋根の下で暮らしたことはもちろんないが、とも子は空想の中で寮母となり、娘のきん子ととも彼らと交流することで、“科学する人たち”がたどる思考の流れに触れる。1編各5ページの表題作11編に、連載の端緒となるプロローグ「球面世界」と「Tさん(東京在住)は、この夏、盆踊りが、おどりたい。」を加えた13編から成り立っている。20世紀の大科学者たちが遺した知識を、その著作を手がかりにしながら、叙情的な表現で描き出した作品として高い評価を受け、季刊雑誌「フリースタイル」28号の特集「THE BEST MANGA 2015 このマンガを読め!」では第1位に選ばれた。