[一言で解説]
自分や他の誰かを守るために、緊急にとった加害行為。加えた害の程度が、避けようとした害の程度を超えず、かつその加害行為をとるしか方法がなかった場合に限り、犯罪は成立しない。
[詳しく解説]
ある船が沈没して乗組員のAとBが海でおぼれかけていたところに、1人分だけつかまることができる板が浮かんでいました。Aが先に板につかまりましたが、Bがそれを奪い取り、Bだけが助かりました。カルネアデスの板という有名な例ですが、このBに犯罪は成立しません。緊急避難と認められるからです。緊急避難は、正当防衛とともに緊急行為ですが、加害行為者に反撃を加える正当防衛と違って、危害を加えられるAに落ち度はありません。落ち度がない人を犠牲にしているのに罰しないわけですから、緊急避難が認められる場合は限定されます。加害の程度が避けようとした害の程度を超えず(法益の権衡)、かつ、その加害行為しかとりようがなかったこと(補充性)が求められます。さきの例では、命対命の関係ですが、害の程度を「超えた」とはいえないし、他に浮いている物がなければ板を奪うしか生き延びようがないので、緊急避難によってBに殺人罪は成立しません。