ミクロ経済学、特にゲーム理論を用いた研究から得られた知見を生かして、現実の制度設計や、市場の失敗(market failure)を克服する具体的手法を研究、提案する新しい分野。理論を補完するために工学的なアプローチが積極的に用いられているのが大きな特徴で、単純に数理モデルを構築するだけでなく、提案された仕組みがうまく機能するかどうかをより客観的にテストするため、被験者を集めた経済実験(economic experiment)や、コンピューターによるシミュレーション(simulation)などを行って予測を行う。この十数年ほどで、マーケットデザインを通じて提案された具体的な制度が、ほぼそのままの形で現実に応用され始めている。電波周波数帯を割り当てる電波オークション、臨床研修医のマッチング、公立学校の選択制度、臓器移植の交換プログラムなどがその代表例である。既存の市場や制度を与えられたものとして捉え、その機能を解明することに注力してきた伝統的な経済学に代わり、イチから制度を設計、あるいは変更することを対象とするマーケットデザインは、その実践例の拡大とあいまって近年急速に関心を集めている。2012年には、マーケットデザインを支える最も重要な基礎理論の一つであるマッチング理論(Matching Theory)の分野を切り開いたロイド・シャプレー(Lloyd S. Shapley 1923~2016)と、その手法を発展させるとともに、現実の制度設計へ数々の実践を行ったアルビン・ロス(Alvin E. Roth 1951~)の2人にノーベル経済学賞が授与された。