国際資本移動が活発な開放経済における、金融財政政策の効果を分析するために使われる理論モデルで、マクロ経済学におけるIS-LMモデルを拡張したもの。今日、日本でマンデル・フレミング・モデルとよばれている理論モデルは、ロバート・マンデル(Robert Mundell)が1963年に発表した論文のものをさすことが多い。このモデルでは、分析を単純にするために次の仮定を置く。(1)自国は小国であり、自国の政策は海外の金利やGDPに影響を与えない。(2)自国経済には十分な過剰設備があり、GDPが変動しても物価は不変にとどまる。(3)投資家は常に、将来の為替レートは不変であると予想する。(4)投資家にとって内外金融資産は完全な代替資産であり、少しでも名目金利が高い資産の方に運用をシフトするように行動するため、リスク・プレミアムは発生しない。
この理論モデルを固定相場の国に適用すると、「マンデルの不可能な三角形」を理解することができる。景気過熱に直面した中央銀行が国債の売りオペを行ってマネタリー・ベースを減少させ、自国の金利を引き上げることで引き締めを試みたとしよう。自国金利の上昇は巨額の資本流入を発生させ、自国通貨の上昇圧力を生むため、中央銀行は大量の外貨買い入れ介入を行って固定相場を維持する必要がある。外貨の買入代金として中央銀行が現金を支払うと金利が低下して引き締めが無効になってしまう。金利低下を避けるために中央銀行がさらに売りオペを続けると、保有国債が枯渇してしまう。実際、中国人民銀行は巨額のドル買い介入を不胎化するために売却可能な国債をすべて売却したが、それでも不足して、自ら人民元建て債券を発行して不胎化介入(→「市場介入」)を行った。しかも巨額のドルを保有する中国人民銀行は、人民元を切り上げるとドルの価値が下落し、大きな為替差損を被ることになる。
この理論モデルを変動相場制下の国に当てはめると、中央銀行によるマネタリー・ベースの増加は、当初自国の金利低下を引き起こすが、これは資本流出を発生させ、自国通貨の下落を生む。自国通貨の下落は、純輸出の拡大を通じてGDPを引き上げるので、金融緩和は有効である。一方、マネタリー・ベース一定の下での拡張的な財政政策は、当初GDPの拡大による自国金利の上昇を引き起こすが、これは資本流入を発生させ、自国通貨の上昇を生む。自国通貨の上昇は、純輸出を低下させ、これが当初の財政政策によるGDPの拡大を完全に相殺するまで続くので、財政政策は無効である。