強い政府と弱い政府、強い社会と弱い社会という二つの軸で国家を四つのタイプに分類する理論。ジョエル・ミグダルが1988年に、特に第三世界の国家を分類し理解するために提唱した。国家と呼ばれる政治単位は、今日の世界には200足らずあるが、国家と呼ばれることだけ共通で、その内実は実に多様である。大枠を作って、いわゆる先進諸国も含めて国家を分類し、政府と社会の関係におおよその見当をつけ、理解の手がかりを得ようとした便利な理論である。
提唱者の意図を拡大して仮に図表で示せば、左右軸の左側を「強い社会」、右側を「弱い社会」、上下軸の上を「強い政府」、下を「弱い政府」とすると、左上が(1)民主・自由主義国家、右上が(2)専制国家、左下が(3)非能率国家、右下が(4)失敗国家のようになるであろう。
失敗国家は、事態を改善しようとしても、政府も社会もともに弱く、改善の意図も互いにつぶし合って失敗に沈み込んでいる社会である。アフリカ大陸に多く見られるが、ギリシャ、スペイン、イタリアなど国家財政の失敗に苦しめられているユーロ通貨の国もここに入る。専制国家は、政府があまりにも強く、社会にはそれに抵抗する制度も力もない国である。中国やソ連崩壊以後のロシアもそこに分類できるであろう。非能率国家は、伝統的な社会的拘束が強く、政府機能がまひしがちな国家である。例えばインドは大きな人口と高度の技術的な潜在力を持っているにもかかわらず、カースト制や多数の言語、女性蔑視などの伝統的な社会的拘束が強く、政府の能率的な機能が妨げられている。民主・自由主義国家は、自由主義、具体的には法の支配と独立の司法機関、多数政党制と言論機関などによって政府の強権は規制されているが、他方で民主主義によって国民多数の支持の上に、強い政府が強い社会と共存している国家である。歴史的には西ヨーロッパと北米に生まれ、模範的な国家の形態とされてきた。しかし、民主・自由主義国家においても、最近では多くの政府の失敗があり、社会の中間層の反発を招いていることは周知のとおりである。