表現の自由が保障されるということは、何より表現活動に対する公権力による事前抑制や内容規制が原則として禁止されることを意味する。とくに、行政権による事前抑制は憲法が明文で禁じている「検閲」に当たるとして、絶対的に禁止される(札幌税関事件・1984年12月12日最高裁大法廷判決)。しかし、それだけでなく、プライバシーの侵害や名誉毀損を理由とする当事者の訴えに基づいて、裁判所が雑誌その他の出版物の発行・販売などの差し止めを命じることも、憲法でいう「検閲」には当たらないものの、公権力による事前抑制の一つであることには変わりがなく、憲法21条との関係で問題とされることになる。
もっとも、自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)も認めている通り、表現の自由は、他の多くの人々の利害と深くかかわるだけに、その「権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う」ものである。したがって、例外的に「他の者の権利又は信用の尊重」のために必要でやむを得ない制限に服することも認めざるをえない。
これと同じような立場から、最高裁判所の判例も、表現の自由を最大限に尊重するという前提に立ちつつ、新聞・雑誌などの事前差し止めについて、被害者が重大で回復困難な損害をこうむるおそれがあるとして、例外的に認めたことがある(北方ジャーナル事件・1986年6月11日大法廷判決、石に泳ぐ魚事件・2002年9月24日第3小法廷判決)。(→「表現の自由」)