2007年10月に、韓国と北朝鮮が行った首脳会談。核実験(→「北朝鮮の核実験(2006年)」)以降、「初期段階合意」を経て、北朝鮮は、対米関係の改善を軸に6者協議の進展を試みるとともに、07年12月に行われる大統領選挙後を見据えて、韓国との関係も再調整しようと考えた。他方、韓国の盧武鉉政権も大統領選挙を有利に展開しようとする内政的な配慮に加え、今後の6者協議で韓国の発言力を確保するため、北朝鮮との合意を必要と考えていた。こうして2007年10月4日、盧武鉉大統領と金正日国防委員会委員長が平壌で署名した「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」では、00年の南北首脳会談でも言及された「民族経済の均衡的発展」に加え「共同の繁栄」の名の下に、投資基盤の拡充、資源開発をはじめ、開城工業団地開発の推進、再連結された鉄道による貨物輸送のための整備を推進していくことも約束され、それまでの南北経済協力推進委員会を、副首相レベルの「南北経済協力共同委員会」に格上げすることにも合意をみた。この宣言で最も注目すべきは、軍事停戦協定を平和協定に転換する平和体制樹立問題に関する合意であろう。将来あるべき平和体制が、韓国が主張する南北間の平和体制であるべきかどうかについては、金正日の言質はとれなかったが、両首脳は、この問題について「直接関連する3者もしくは4者」による首脳会談を「朝鮮半島地域」で開催することに合意した。6者協議のなかで、平和体制樹立のために1990年代後半に開かれた4者会談(韓国・北朝鮮・アメリカ・中国)が開かれるべきことについては、2005年9月の6者協議共同声明以来、参加国の間でほぼ了解がとれている。軍事停戦協定を平和協定に転換する際、それに「直接関連する」のは韓国・北朝鮮・アメリカ・中国の「4者」を指すが、韓国には在韓米軍が駐留しているのに対して北朝鮮には外国軍が存在しないという軍事的な非対称性を考えたとき、北朝鮮が中国の参加に否定的な姿勢をみせても不思議ではない。事実、「3者」による首脳会談を提案したには金正日であったという。これについては中国外交部発言人も批判を加えたが、平和体制樹立問題が本格的に議論されれば、中国の位置づけが問題となるであろう。また両首脳は、南北国防長官級会談を定例化するなど、軍事的信頼醸成にも多くの合意をみた。注目されるのは過去南北海軍間で銃撃戦まで展開された黄海(西海)に「平和水域」を設けるという構想である。このような事業を海上で行うにあたっては、朝鮮戦争直後に国連軍司令部が設定した北方限界線(NLL ; Northern Limit Line)を撤廃するなどの新たな合意がなければならない。両首脳は、朝鮮半島の核問題を解決するため、6者協議共同声明、「初期段階措置合意」の履行のために共同で努力することを謳ったが、6者協議を通じた非核化のプロセスのなかに、平和体制樹立、軍事的信頼醸成をいかに組み込んでいくかが問われている。