アメリカのオバマ政権下(2009~17年)における米朝関係をみると、6者協議が開催されない状態が続く中、北朝鮮は核ミサイル開発を進めたが、オバマ政権は「戦略的忍耐」の名の下に、いくら北朝鮮が核ミサイルで軍事的挑発をしても交渉に応えないという立場をとった。状況は改善されないが、軍事的緊張が高まるというわけでもなかった。しかし、トランプ政権(17年~)は、北朝鮮問題を最優先課題に設定し「最大限の圧力と関与」を掲げた。それに対して北朝鮮もアメリカ本土を射程に入れる核戦力の完成を急いだことで、17年、米朝間の軍事的緊張はこれまでになく高まった。今後、アメリカが北朝鮮への圧力に効果を持たせるためには、本気で軍事的オプションの行使を念頭に置かなければならない。ただ、軍事的オプションの行使によって、アメリカにとっては局地戦争が起こるに過ぎないかもしれないが、同盟国の日本・韓国にとっては全面戦争に巻き込まれるリスクがあるだけに、日韓は軍事オプションを現実に行使することに無条件で賛成するというわけにはいかない。北朝鮮の非核化が米朝交渉の前提条件だという立場のアメリカと、核戦力を完成させて核保有国という対等な立場で米朝交渉に臨もうとする北朝鮮との間で、軍事的緊張が持続する。その最中に、18年2月の平昌(ピョンチャン)オリンピックをきっかけに、南北の特使交換と韓国特使の訪米が行われ、その中で、北朝鮮が軍事的脅威の解消と体制の安全保証という条件付きではあるが非核化への明確な意思を示した。結果、4月末の板門店(パンムンジョム)韓国管理地域側での南北首脳会談開催、5月の米朝首脳会談の開催に合意した。非核化の内容をめぐる米朝の乖離は大きいだけに、北朝鮮の非核化に向けた交渉が順調に進むのか予断は許さないが、対立から対話へと潮目が変わったことは事実である。