インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で続いている両国の停戦ライン(Line of Control LoC)を挟んだ砲撃、銃撃などの軍事衝突や潜入攻撃のこと。特に2015年夏以降、顕著になっている。例えば16年1月には、LoCに近いパタンコートにあるインド空軍基地が4人の自爆犯によって攻撃され、民間人を含む8人が死亡。同年9月18日にはLoCに近いウリのインド陸軍歩兵旅団本部が、同じく潜入した自爆犯によって襲われ、19人の死者を出した。これに対しインドは、パキスタンの軍や情報機関が領内のテロリストを支援していると非難。同年9月29日、極秘作戦部隊をパキスタン領内に送り、テロリストの根拠地とされる7カ所を破壊し、武装勢力38人を殺害したと発表。これをピンポイント攻撃を意味する「外科的打撃(surgical strike)」と自賛して、対パキスタン強硬姿勢を誇示した。パキスタンは、これを「ピンポイント攻撃などではなく、自国への一方的な越境攻撃」と非難。その後もLoC付近では、両国軍の衝突やテロが散発的に起きている。170人以上の犠牲者を出した、08年11月26日のムンバイ同時テロ事件以来、インドとパキスタンの関係は、時折改善の機運を見せながらも、冷え切ったままである。ナレンドラ・モディ首相(→「モディ政権」)は政権発足後、14年5月の就任式典にパキスタンのナワーズ・シャリフ首相(→「シャリフ政権」)を招待したり、15年12月末にはアフガニスタンから帰国の途上に突如パキスタンを訪問してシャリフ首相と会見するなどの「奇襲外交」を演じたが、16年の事態は、これらの「奇襲外交」の効果が薄れてきたことを示している。モディ政権発足当初よりも、両国関係は明らかに悪化している。