ナワーズ・シャリフ元首相の率いるパキスタン・ムスリム連盟(ナワーズ派)は、2013年5月11日に実施された国民議会選挙で総議席342のうち166議席を、さらにその後の補欠選挙等を合わせ189議席を獲得し、1999年10月以来13年ぶりに政権に復帰した。ナワーズ・シャリフは、90年、97年に次ぐ3度目の首相就任である。前大統領ザルダリが率いたパキスタン人民党は、パキスタン建国後、政党内閣として初めて5年の任期を全うしたものの、汚職、治安悪化、電力不足などに対する国民の強い批判を受けて45議席の第二党に転落した(→「ザルダリ政権」、「ザルダリ汚職事件」)。前政権の残した課題のなかで、パキスタン・タリバン運動(TPP)によるテロ活動への対策が急務である。シャリフは従来からTPPとの交渉を重視してきたが、2013年10月のシャリフ訪米直後、TPP指導者ハキムッラー・マフスードがアメリカの無人攻撃機によって殺害された(11月1日)。パキスタン政府はこれをTTPとの交渉を妨害するものとして強く非難した。TPPは後任指導者に交渉反対派のマウラナ・ファズルッラーを指名し、態度を硬化させている。国内では11月から12月にかけて陸軍参謀長と最高裁判所長官の任期満了に伴う交代が相次いだが、いずれの人事にもシャリフ首相の指導力が発揮されたとみられている。軍、司法府との軋轢(あつれき)に悩まされた前ザルダリ政権に比して、シャリフ政権は有利なスタートを切っている。14年のアフガニスタン撤退を控えるアメリカとの関係では、13年10月の訪米時に16億ドルの援助をとりつけ、アフガニスタンへの補給路を再開したが、ハキムッラー殺害が両国関係を緊張させている(→「パキスタン・アメリカ関係」)。インドとの関係では、12年12月から13年8月にかけて、管理ライン沿いで死傷者を出す両国軍の衝突があった。9月29日両国首相は国連総会の機会に会談し、緊張の緩和を約束したが、本格的対話の再開には至っていない。