アウグスト・ピノチェト(Augusto Pinochet Ugarte)陸軍総司令官を首班とするチリの軍事政権(1973~90年)。73年9月11日にクーデターによって、世界で初めて議会制下での社会主義社会実現を目指したサルバドル・アジェンデ(Salvador Allende)人民連合政権(70~73年)を倒した。軍事支配のもとで「フリードマンの優等生」といわれるほどに完璧な新自由主義経済政策を実施し、80年代末から高度経済成長を実現した(→「ネオリベラリズム」)。一方、80年には、基本的自由や人権を制限し、また軍部の政治介入を制度化した新憲法を制定した。反軍政派は秘密警察DINAにより徹底的に弾圧された。民政移管後の90年に出された「真相と和解全国委員会報告」(レティヒ報告)によれば、クーデター直後の1週間に逮捕拘禁された者7000人以上、軍政下の人権侵害犠牲者2920人、そのうち逮捕後に殺害された者1068人、行方不明者975人、政治的暴力により(抗議行動時など)殺害された者164人となっている。ただし、これは軍部が認めたケースに限られ、実数は大幅に上回る。70年代から80年代にかけて南米ではアルゼンチン、ブラジル、チリ、ウルグアイなどほとんどの諸国が長期の軍事支配下におかれ、一様に輸入代替工業化政策から対外開放・自由市場経済政策に転じ、その一方で反体制派の逮捕や投獄、行方不明など多くの人権侵害事件が起きた。(→「ピノチェト元大統領死去」)