2016年8月31日、ジルマ・ルセフ大統領がブラジル史上初めて、弾劾によって罷免された事件。弾劾成立には上院本会議における全議員の3分の2(54名)の同意が必要であり、罷免された大統領は8年間の公職追放となるが、今回は罷免と公職追放の採決が別々に行われた。その結果、前者は賛成61、反対20で成立したものの、後者は賛成42、反対36、棄権3で成立せず、公職追放は科されていない。直接の契機は、ルセフと対立するエドゥアルド・クーニャ下院議長による、不正会計操作を根拠とした弾劾告発の受理であった。さらに与党労働者党の関与が疑われる石油公社ペトロブラスをめぐる汚職問題や、景気後退にともなうルセフ政権の支持率低迷が、下院における弾劾告発の承認と上院における弾劾審議を後押しした。ルセフや労働者党は、一連の弾劾の動きを「議会によるクーデター」であると非難したが、弾劾手続き自体は憲法に則って行われた。ただし本来大統領制では想定されていない、「不信任決議」を用いた議会による不人気な大統領の解任、という面が強かったのも事実である。ルセフの失職により、副大統領のミシェル・テメルが新大統領として、2018年12月末までの残りの任期を務めることとなった。