慢性胃炎は、胸やけ、胃もたれ、胃痛、胃部不快感、吐き気など、多彩な症状を伴う胃の病気。自覚症状がなく、内視鏡検査で診断されることも少なくない。発症頻度は加齢とともに増加し、50歳代では50%、60歳以上では70%近くが組織学的胃炎をもつといわれている。最近では、消化性潰瘍やがんなどの器質的疾患は認めないが、上部消化器症状を訴える機能性胃腸症 (functional dyspepsia ; FD)という病気も注目されている。漢方医学では、生命活動を営むエネルギーである気(き)を作るのは胃腸と考え、働きを高める治療を重んじる傾向にある。胃もたれが主症状の場合は、六君子湯(りっくんしとう)や四君子湯(しくんしとう)が用いられる。とくに六君子湯は胃の貯留能を改善し、胃から十二指腸へと消化物を排出する力も高めることが、薬理学でも証明されている。胸やけが強い場合は、安中散(あんちゅうさん)が有効である。胃部不快感のほか、口内炎ができやすく、軟便ぎみの場合は半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)が頻用される。ストレスで胃の働きが悪くなっている場合は、抗ストレス作用のある柴胡(さいこ)を含む柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)や四逆散(しぎゃくさん)、気のめぐりをよくする紫蘇葉(そよう)を含む半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)なども使用する。