核分裂性ウラン(ウラン-235→「核分裂」)の濃度を上げる操作のこと。ウラン-235とウラン-238は同じ元素に属するため、化学的な挙動は同一であり、質量差など物理的な違いを利用して分離・濃縮する。製品として得られるウランが濃縮ウラン(enriched uranium)、一方、核分裂性ウランの濃度が減った方の成分が劣化ウランとなる。原爆製造の基本技術であるため高度の軍事機密のベールに包まれ、各国がそれぞれ独自技術を研究・開発してきた。電磁法、(ガス)拡散法、ノズル法、遠心分離法、レーザー法などがある。現在でも主流はマンハッタン計画で採用されたガス拡散法であるが、この工程は大変な電力多消費であり、たとえば、広島原爆の場合、それが30kgの93%濃縮ウランでできていたとすれば、製造に要したエネルギーは、濃縮工程のエネルギーだけで原爆の爆発で解放されたエネルギーの3倍にも達した。日本はエネルギー消費量が比較的低いという遠心分離法を採用し、旧動燃の人形峠事業所でパイロットプラントや原型プラントを作って実験した。その技術で日本原燃が青森県六ヶ所村に合計で1500t-SWU(ウラン濃縮に要する仕事量の単位。100万kWの原子力発電所の1年間分の燃料濃縮で約120t-SWU)の能力を持つ濃縮工場を建設しようとした。しかし、1050t-SWUまで建設した段階で、遠心分離機が次々と故障して動かなくなり、2010年12月にはすべてが「計画停止」という名目の下、稼働できなくなった。そのため、新遠心分離機に入れ替えることになり、まず初期導入として、第二期工事ラインであるRE-2(450t-SWU)のうち75t- SWU/年を37.5t-SWU/年ずつ2回に分け、前半分は12年3月、後半分は13年5月に生産運転を開始した。しかし、その後、新たな新型遠心機の更新工事はできずに時だけが流れてきた。
現在、イランが遠心分離法のウラン濃縮工場を建設中で、欧米諸国は核開発だと非難する一方、イランは平和目的で国の権利だと主張して対立を深めてきた。16年に入ってようやくに双方で合意が成立したが、火種が消えたわけではない。朝鮮民主主義人民共和国も小規模ながら遠心分離法のウラン濃縮工場を稼働させたことを公表し、それが原子力発電のための燃料を製作するためであり、平和利用だと主張している。軍事と平和の区別がないという技術の本質に由来する問題で、将来にわたって紛争の種になる。