今日利用されている火力発電も原子力発電も、発生させた蒸気でタービンを回す蒸気機関で、基本的に200年前の産業革命の時に誕生した技術である。特に、現在稼働している原子力発電では、燃料の健全性を維持するため冷却水の温度を高くすることができず、タービンの入り口での蒸気の温度は550K(約280℃)ほどで、実際の熱効率は33%しかない。つまり、利用したエネルギーの2倍となる67%のエネルギーを無駄に捨てる以外にない。そのため、100万kWといわれる原子力発電所の場合、1秒間に70tの海水の温度を7℃上昇させる。原子力発電所を作るということは、その敷地に忽然(こつぜん)として「温かい大河」を出現させることになる。
また、温廃水は単に熱いだけではなく、化学物質と放射性物質も混入させられた三位一体の毒物である。まず、生物の幼生を殺すための化学物質が取水口で投入される。なぜなら、海水を引き込む配管表面にフジツボやイガイなどが張り付き、配管が詰まってしまっては困るからである。さらに、放水口では、汚染した衣服を洗濯して発生する洗濯廃水などの放射性廃水も加えられる。日本にあるほぼすべての原子力施設は、原子炉等規制法、放射線障害防止法の規制に基づき、放射性物質を敷地外に捨てる場合に濃度規制を受ける。原子力発電所の場合、温廃水という毎日数百万tの流量をもつ「大河」があるため、いかなる放射性物質も十分な余裕をもって捨てることができる。洗濯廃水には洗剤が含まれているため廃水処理が難しく、原子力発電所から見れば、苦労して処理するよりは薄めて流すほうが得策となる。