放射能は人為的に消すことができない。除染という言葉は「汚れ」を除くという意味だが、原子力の場合の「汚れ」は放射性物質による汚れであり、放射能を消すことはできないので、言葉の本来の意味で、除染はできない。できることは、漏出した放射性物質による薄く広がった汚染を濃縮して集め、それを生命環境から隔離する、あるいはある場所に存在する汚染を別の場所に移すことであり、言葉の本来の意味で言えば、「移染」でしかない。体に放射性物質が付着したときには、まずは洗い落とすことが必要だが、そうした場合も、汚染物質は洗浄水に移ったにすぎない。
2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故を受け、日本政府は周辺の汚染地帯を除染するとしているが、汚染は大地そのものが受けている。森林もあれば、田畑もあるし、建物や道路もある。それらをすべて「移染」することはもともとできないし、汚染物質を移す場所すらない。しかし、人々の被曝を防ぐためには、「移染」もとるべき対策の一つであり、汚染した建物、道路などから、高圧洗浄で放射性物質を洗い落としたり、森林を伐採することで、森林にあった汚れをその場から除いたりしてきた。それでもやはり、放射性物質が消えたわけではなく、その保管が今後の重荷になっている。政府は、各県に1カ所ずつ「中間貯蔵施設」を作ろうとしてきている。また、自然環境では、物質は循環しているため、一度「移染」して放射性物質の汚染レベルが減った場所にも、別の場所から新たな汚染源が移動してくる。今後長期間にわたって、繰り返し、「移染」作業が必要となる。