メルトダウンで溶け落ちた核燃料が特殊な形状で集積すると、核分裂の連鎖反応が持続する状態が生じる可能性がある。そうした状態を再臨界(recriticality)と呼ぶ。大規模な再臨界が起きる可能性はほとんどないが、小規模な再臨界が継続的に生じる可能性がある。2011年12月、当時の野田佳彦首相は福島第一原子力発電所の事故収束宣言を出した。野田首相によると、原子炉は「冷温停止状態」に入ったとのことであった。冷温停止(cold shutdown)とは、原子炉圧力容器が健全で内部に水をためることができ、その水の温度が100℃未満、つまり沸騰しない状態のことである。しかし、福島第一原発の1号機から3号機は、メルトダウンで炉心が溶け落ち、圧力容器の底を溶かしてさらに下に落ちてしまっているメルトスルーの状態にある。もちろん、圧力容器が水を蓄えていることもできなければ、炉心そのものが圧力容器の中にないので、当然「冷温停止」というテクニカルタームは使えない。そこで「冷温停止」に「状態」という言葉をつないで、あたかも事故が収束できたかのように言ったわけだが、残念ながら溶け落ちた炉心が今どこにどのような状態であるのかすら分からない。場合によっては、炉心がすでに格納容器の底すら溶かし、地面に沈み込んでいっているかもしれない。あるいは、再臨界の状態になって核分裂の連鎖反応が再度始まってしまう危険もある。再臨界が生じる場合には、短寿命の放射性核種で、かつ環境に漏洩(ろうえい)しやすいキセノン133(xenon-133 半減期5日)、キセノン135(半減期9時間)などの検出が判断の重要な根拠になる。