分子の持つ電子状態の制御により、トランジスタ、ダイオード、発光デバイス、センサーなどを実現するというもの。通常のシリコントランジスタの100万分の1程度の大きさにできるため、100万倍高い性能のシステムを実現できると考えられている。分子素子(分子デバイス)の概念は1970~80年代初頭、主にアメリカの研究者の提案による。特に81年と83年の2回にわたって開かれた分子素子に関するワークショップにおいて、有機分子を用いた分子計算機とよぶ具体的なデバイス概念が発表され、注目された。分子素子では、分子1個がトランジスタ機能を有する分子回路を形成しており、現在のシリコンを中心とした半導体集積化技術の限界を打ち破る次世代デバイスの有力候補と考えられた。電子デバイスの観点からは、分子電子デバイスともいう。一方では、具体的な分子素子の組み立て方、分子間配線、外部回路との接続、分子レベルの素子機能の確認法、さらには信頼性、寿命、動作速度といった多くの問題点や課題が出された。しかし分子素子の概念も少しずつ変化しており、最近の分子超薄膜技術の進歩と走査型プローブ顕微鏡(SPM)の登場は、あらためて分子素子実現への期待感を高めた。特に、有機分子は、化学合成や自然界からの抽出によって膨大な種類が知られており、これらの組み合わせを考えると、分子素子の有する多用な機能性が予想される。また、各分子の自己組織化を利用した分子集合体において発現する新機能性に期待が寄せられている。この概念は、優れた生体機能を直接利用したり、模倣したりするバイオチップ、バイオコンピューターなどの分野とも関連し、急速に進展している。