十分多くの量子系が未知の決まった状態にあるとき、その量子状態を一連の量子測定実験により同定すること。未知の量子系が一つしかない場合は、ノー・クローニング定理(量子情報は自由にコピーすることができないという定理)の帰結としてその量子状態を同定することはできないが、数多くあると同定できるようになる。たとえば、水平から30°偏光した光子が多数与えられたとき、そのいくつかを「水平か垂直か?」という測定をすると、3:1の割合で水平と垂直の答えが出る。残りからいくつかを「10°か100°か?」であるとか「20°か110°か?」などの測定をしても、結果は確率的なので確かなことはわからない。「30°か120°か?」の測定をして初めて常に30°という結果が出るので、そこで「30°だ」と結論できる。もし、光子が一つしかなければ、仮にたまたま「30°か120°か?」の測定をして30°という結果を得ても、その1回の測定から30°であると結論できない。なお、トモグラフィーという用語は、医療で超音波像やMRIなどの断層像を得る手法としても用いられるが、さまざまな角度の投影像から二次元断層像を得る処理は全く同じである。量子状態を同定するのは、正確には量子状態トモグラフィー(quantum-state tomography)と呼ばれ、量子操作のトモグラフィー(quantum-process tomography)と区別される。単に量子トモグラフィーといった場合は、前者を指すことが多い。