量子情報は自由にコピーすることができないという定理。量子情報が古典情報(現在用いている情報)と異なる点は二つあり、一つはこの定理であり、もう一つは量子もつれ(→「エンタングルメント」)の存在である。仮にコピーができるとすると、不確定性原理(uncertainty principle)に反するということで、この定理を理解できる。不確定性原理とは、たとえば位置と運動量、直線偏光と円偏光などの共役な二つの物理量を同時に測定することができないという原理である。仮にコピーが作れるとすると、十分多数作ったコピーのうち半分で一つの物理量を測り、残りの半分で共役な物理量を測定することができてしまう。ノー・クローニング定理の直接の応用は量子暗号である。すなわち、盗聴とは気付かれないように、元を壊さず鍵を複製することであるが、この定理はそれができない場合があることを保証しており、そのような場合を実現するのが量子暗号である。