カーボンナノチューブとリボソーム(細胞内の顆粒の一つで、たんぱく質合成が行われる場所)の分子複合体からなるナノ構造は、ガラス基板上に形成したマイクロ流路を進むときに、電位の勾配により進行方向を決定することができる。迷路のような流路に対しても、出発地と目的地に電圧を加えることで自動的に最短経路を選択する。さらに、カーボンナノチューブがもつ光照射による加熱効果と、リボソームがもつ温度上昇による構造変化を組み合わせることで、目的地で乗客を降ろすように内包物を放出するナノ構造が実現できた。これは産業技術総合研究所で開発されたものだが、ほかにも長い分子の鎖の上を分子モーターが走る構造が実現されており、DNAの特性を利用して目的地を正しく選択するような工夫も考えられている。ナノスケールでの輸送機能をもったものには、開発者の考えでナノカーなどさまざまな名前が付けられているが、この場合は線路上を走り目的の駅で人を降ろす電車のアナロジーから「ナノ電車」と呼ばれている。これらのナノスケール輸送技術は、化学や医療の分野に革新的な進歩をもたらすことが期待される。