宇宙が誕生した直後、光速度を超える速度で一気に大きくなった後、ビッグバン(→「ビッグバン宇宙論」)が起こったとする説で、1980年代初頭に、アラン・グース、佐藤勝彦らが独自に提唱した。当時、南部陽一郎が提唱した自発的対象性の破れを記述するゲージ理論が盛んに研究されていたが、これは大統一理論を予言する。それに基づくと、誕生直後の宇宙のように超高エネルギー状態では真空が相転移を起こし、真空のエネルギーが一気に解放されて宇宙は指数関数的に大きくなり、その後のビッグバンにつながると考えられる。一方、それまでの宇宙論には、観測された宇宙はあまりに一様で、これだけ大きな宇宙に凹凸や方向による違いが見えないのは理解しがたいという問題があった(地平線問題、平坦性問題)。そこで、もし宇宙が超光速度で膨張するなら(インフレーション)、宇宙は瞬時に一様化するので、これらの問題は解消される。WMAPやプランク衛星による宇宙背景放射の観測データも間接的にインフレーションを支持している。その後、素粒子理論の発展とともに宇宙誕生直後の過程について様々なアイデアが提案されてきたが、インフレーションの考えはその基礎となっている。なお、インフレーションは宇宙誕生後10-44から10-33秒の間に起こり、宇宙は10-34cmから1cmまで大きくなったという。