「リスク社会」を論じたドイツのウルリッヒ・ベックは、科学技術の専門家や行政官は、一般人の科学技術に対する不安は知識の不足(欠如)のせいと考える傾向があると指摘した。これが正しいなら、科学技術知識を十分に与えさえすれば不安は解消するはずである。科学技術が社会に受け入れられないのは一般の無理解のためだという考えも、欠如モデルに基づいている。イギリスの科学技術社会論の専門家ブライアン・ウィンらは、このような考え方を欠如モデルと名付けて批判した。彼らの研究によれば、科学技術不信の背景には、社会的で合理的な理由がしばしば見られる。また、EU(欧州連合)加盟国の世論調査であるユーロ・バロメーター(Eurobarometer)によると、科学技術の知識のある人ほど科学技術に不信を抱きやすい。科学技術への不信が専門家の考えるのとは異なった理由で生じているなら、これに配慮した科学技術運営が求められる。コンセンサス会議、市民陪審(citizen jury)などは、そのための取り組みである。アウトリーチという用語も同様の流れの中にある。(→「サイエンス・ショップ/コミュニティー・ベースト・リサーチ」)