数学を記号と論理だけで記述しようという試みの先頭に立っていたB.ラッセルは床屋のパラドックス(→「嘘つきのパラドックス」)と同じタイプの問題を集合の上で構築した。これをラッセルのパラドックスという。ラッセルのパラドックスは本の目録にたとえて、次のように説明できる。本の目録というのは、本の名前やページ数など、それぞれの本について紹介した本である。目録であっても本なのだから、本の目録に、その目録自身が載っていてもおかしくはない。では、その目録自身が載っていないような本の目録だけを全部収録した目録はできるだろうか。そういう目録の目録を「A」とする。
AにAが載っていれば、Aに載せる基準からして、Aはその目録自身、つまりAに載っていないことになる。逆に、AがAに載っていなければ、自身が載っていない目録になるので、Aに載っていなくてはいけない。これは「載っていれば、載っていない。載っていなければ、載っている」というパラドックスである。ラッセルのパラドックスにより、それまでの集合論には欠陥があることが示され、公理的集合論が作られるきっかけになった。