気体や液体のように流動する物質の運動を論じる学問。歴史は古く、18世紀には完全流体(ideal fluid 粘性のない流体)の理論が展開された。粘性流体(viscous fluid)の基礎方程式として広い適用性をもつナヴィエ・ストークス方程式(Navier-Stokes equation)の確立からも1世紀半近い。だが、この古い学問はソリトンやカオス、フラクタル(fractal 自己相似構造をもつ図形)等の現代科学の概念の発生母体となっている。また、流体は開放系における各種の散逸構造(dissipative structure 自発的に生じたパターンやリズムなどの時空構造)、分岐現象(bifurcation phenomenon 相転移現象に対比される、散逸構造の出現)の宝庫でもある。流体物理の最大の難問は乱流(turbulence)である。流体の粘性力に対する慣性力の大きさを表す無次元量としてレイノルズ数(Reynolds number)があり、この増大とともに流れは複雑化して乱流となる。弱い乱流はカオス理論によって理解が進んだが、発達した乱流については十分な理解には達していない。