通常の物質とは違って、原子量の小さいヘリウム原子(3He,4He)の集合体はいかに温度を下げても固体にならない。これは、量子力学の不確定性原理に基づく量子ゆらぎ(quantum fluctuation)が、軽いヘリウム原子では特に大きいために、ちょうど熱ゆらぎによって結晶が融けてしまうように固体状態が保てないからである(→「量子相転移」)。このような液体を量子液体または量子流体(quantum fluid)と呼んでいる。量子流体はある温度以下で超流動を示す。ボーズ粒子系である4Heの場合、通常の流動状態(常流動)から超流動状態への相転移はボーズ・アインシュタイン凝縮の一種と見なされる。これらの量子流体に見られる乱流(turbulence)状態すなわち量子乱流は近年活発に研究されている。通常の流体(古典流体)における乱流も量子乱流もともに流体に生じた多数の渦(vortex)の複雑な運動に起因するが、両者の大きな違いは、古典流体ではさまざまのサイズや強度の渦が存在するのに対して超流動体では渦はすべて同一であり、渦流の強度はユニットとなる渦の個数のみによって変化するという点である。一般に乱流を特徴づける最も重要な物理量として、速度場の各波長成分がどれだけエネルギーをもっているかを示すエネルギースペクトルが重要であり、通常の流体ではコルモゴロフ則(Kolmogorov law)と呼ばれる法則がよく成り立っている。量子流体でも類似の法則が成り立つか否か等の問題が、理論、実験、計算機シミュレーションの立場から研究されている。