現在の天体構造は、宇宙マイクロ波背景放射(CMB ; cosmic microwave background radiation 宇宙から等方的にやってくるマイクロ波)に見られるゆらぎが成長したものと考えられている。インフレーション宇宙説では、この原始ゆらぎの起源をさまざまな量子場の真空ゆらぎ(vacuum fluctuation 真空が、粒子と反粒子とがペアで生成・対消滅をくりかえして沸き立つような状態にあること)にあるとしている。磁場や重力場を含めた物質場では、このゆらぎは直ちにエネルギー密度のゆらぎに転化して音響振動の情報を含む原始音波(primitive sound wave →「原始音波振動」)となるが、重力場のゆらぎは現在まで赤方偏移(発生源が遠ざかることで波長がより長くなる現象)した重力波として残存することになる。
この原始重力波の探索にあたっては、観測計画LISAのように複数の人工衛星を使っておのおのの間隔を精密に測定し、その間隔に生じるひずみから長波長の重力波を直接検出する試みがあるほか、もう一つの試みとして、CMBの偏光マップから原始重力波を探し出す試みもある。これは(1)宇宙の誕生から約38万年後、プラズマとなっていた電子と原子核が結合したため、光子が電子の影響から解放されて直進できるようになった宇宙の晴れ上がり(transparent to radiation)の後、(2)重力波に起因する特徴的な密度ゆらぎのもとでの光子の散乱に由来してCMBにBモードと呼ばれる偏光成分が生じ、(3)偏光マップにそのパターンが見られることに基づくものである。CMBには振動方向の偏りによるBモード(B mode)とEモード(E mode)のパターンがあり、Bとは磁力線状、Eモードとは電力線状の意味である。なお、物質場の原始音波はEモードである。Bモードの探索は衛星や地上設置の望遠鏡で進行中であるが、地上からの小さな角度での観測では銀河系内の星間ダストなどによる偏光成分の混入を取り除いていく必要があり、多波長での観測や衛星観測のような大角度での観測が今後必要になる。