量子宇宙(quantum universe)、すなわち宇宙時空全体が最小単位であるプランクスケール(Planck scale)の量子状態であった後、時間の指数関数的に1060倍以上も一気に宇宙が膨れあがったとする説。初め大統一理論での真空相転移の理論(→「真空相転移と力の分岐」)に基づいて1981年に提唱されたが、現実のメカニズムはまだ不明。真空エネルギーが熱い物質のエネルギーに転化してインフレーションは終わる。その際、真空の量子ゆらぎが原始重力波や物質密度の原始ゆらぎに受け継がれ、天体構造の原因となると考えられている(→「ビッグバン」「原始重力波」「原始音波振動」)。ほぼ一様密度の平坦空間の起源を説明したA.グースの当初のシナリオは魅力的であったが、その後の検討で、その可能性は確率的に難しいことが明らかになっている(→「マルチバース」)。
提案後、数千の論文が提出され、理論的には詰めきれずに長い歳月が経過しているが、その間に実験技術が進歩して、理論は活性化されている。理論提唱者を顕彰する国際賞の授与が続き、ブームを作ったのは、A.グース、A.リンデ、P.J.スタインハートらだが、観測と関連するのは量子ゆらぎに起因する密度ゆらぎや原始重力波などであり、この面でV.F.ムカノフとA.スタロビンスキーが評価されている。スタロビンスキーは79年に重力量子補正で指数関数膨張の可能性を指摘して原始重力波を具体的に論じた。リンデ、ムカノフ、スタロビンスキーの80年前後の時期の論文は、みな旧ソ連時代のものである。ソ連では、ヒッグス粒子の理論提案時の60年代から、宇宙初期での真空相転移(ビッグバン宇宙初期での温度の効果にともなって、場の量子論の真空状態が相転移を起こしたという見方)の理論が提案されていた。