磁石の源は、原子を構成している電子のスピン(spin 自転)である。電子のスピンには、二つの向き、例えば左向回転と右向回転があって、それぞれ上向きのミクロ磁石(↑)と下向きのミクロ磁石(↓)になる。水素原子は、1個だけ電子をもっているので、その電子のスピンによる1個のミクロ磁石をもっている。ところが、二つの水素原子から水素分子を作るとき、H(↑) + H(↑) → H(↑↓)Hのように、電子のスピンが互いに逆向きになるように結合をつくるので、ミクロ磁石は互いに打ち消されてしまう。
水素原子のようにミクロ磁石をもっているものを常磁性体(paramagnetic substance)といい、水素分子のようにミクロ磁石がないものを反磁性体(diamagnetic substance)という。磁石(マクロ磁石)の中ではミクロ磁石が同じ向きで多数並んでいる。
有機物中の電子はほとんどスピンの対を作っていて反磁性であるが、不対電子をもつ有機ラジカルは、ミクロ磁石(分子磁石)をもっている。分子磁性はこの有機ラジカル分子の示す磁性である。有機ラジカルを高分子化、あるいは積層させて、分子磁石のミクロ磁石が同じ向きに配列するように制御して、これまでの無機磁石(inorganic magnets)にかわる有機磁石(organic magnets)を作る研究が行われている。有機磁石の特徴として、軽いこと、曲げられること、光を通すことなどがあげられる。