実存主義とは、合理主義や観念論に反発して、生きる個人の主体的な存在(実存)を呼び覚まそうとする、20世紀前半の思想運動である。
伝統的に、実存(existence)は本質(essence)と対をなす存在概念であって、本質のほうが、あるものが何であるのかという普遍的な規定を意味するのに対して、実存のほうは、実際にそれが在るという現実的な存在を意味する。キルケゴール(Sren Aabye Kierkegaard 1813~55)は、この実存の概念を人間へと適用して、われわれにとって重要なのは人間性や理性といった普遍的本質ではなく、むしろ生きる個人の内面性や主体性にこそ真理があると主張することで、実存主義の先駆けとなった。
キルケゴールの思想を継承するかたちで、20世紀前半のドイツでヤスパース(Karl Jaspers 1883~1969)やハイデガー(Martin Heidegger 1889~1976)が実存の哲学を展開した。ハイデガーは「存在と時間」(1927)において、その人の存在を決定するのは、あらかじめ定められた事物としての客観的性質ではなく、むしろ自分が将来的にそうでありうるという可能性であると考え、その可能的存在を「実存」と名づけ、人間を実存の観点から分析した。
サルトル(Jean-Paul Sartre 1905~80)は「実存主義はヒューマニズムである」(1946)において、「実存は本質に先立つ」と宣言して、みずから「実存主義」を標榜(ひょうぼう)した。ペーパーナイフであれば、目的や性能が決められてから作られるだろう。それゆえ本質が実存に先立つ。しかし人間は、自分が何であるのかも知らぬままに、世界に放り出され、生き始める。人間はまず実存するのであり、みずから本質を決定せねばならないのである。
実存主義は哲学にとどまらず文学や精神医学など幅広く影響を及ぼし、20世紀の重要な思想潮流の一つとして足跡をのこした。